アルティメットを始める君へ(5)


2年生(5)

面白い1年生が居る。
合宿で話題になった。合宿所にあるラグビーポールのバーに届くというのだ。見ると身長がそれほど高くない。ふくらはぎは、ラグビーボールのようにふくれていた。
身長が低いぼくは身体的にコンプレックスが有る。高いところでの競り合いには勝てないし、足も速いほうではない。背が高い人を見ると怖じ気づく。しかも器用ではないときている。

運動能力が高いH君はのちに全米チャンピオンにまでなるのだが、その片鱗はこのころから見せていた。スロー自体は1年生なのでもちろん上手ではない。しかし、何というか統率力が有るのである。自分が何をすべきかを瞬時に判断し、実行する稀有の能力と行って良い。いつしか彼は、ぼくのことを”とかちゃん”と呼び、傘下に入れていった。

ともあれ、ぼくは夏休みになると実家に帰っていた。
ある日、同級生から電話が来る。

『とか、帰ってこいよ。oneに選ばれたぞ』

『?!』

oneとは大学で一番強いチームである。そこにぼくが選ばれるとは何事か!
ろくに練習もしていないのだ。だから帰らなかった。また電話が来た。

『帰ってこい』

仕方なく帰った。

oneに選ばれたぼくの役割は、ゾーンディフェンスのカップだった。
ゾーンディフェンスとは、ひとりひとりにディフェンスがつくマンツーマンディフェンスとは違い、一定のルールで自分の守る場所が決められているディフェンスだ。バスケットボールのぞれと似ている。カップとは、スローワーの投げる方向を限定するポジションで一番重要な、体力のいる、頭と声を使うポジションだ。今でもそうだが、当時のゾーンディフェンスは試行錯誤の連続で常に話し合っていた。何せオフェンスは日本一を目指す方々なのだからディフェンス側も大変だった。ポジショニングはどうか、声出しはどうかなど話し合うことはたくさんあった。全く持って始めはザルだった。合宿に行っても三日間ずっとゾーンディフェンスをしていた。
あるとき、ぼくがサイドスローを教わった先輩の顔が曇った。投げるところを探していた。ゾーンの1つの目的としては、スローの度にオフェンスに考えさせることがある。いちいち考えて投げるとスローの精度も下がり、ディスクを動かすスピードも遅くなり、
ディフェンスの餌食になることが多い。それができた。はじめてチームの一員としての一体感を味わった。
ゾーンディフェンスを通して、目的ということを意識するようになった。目的は何かを知ることで、何をすべきかが判るようになる。例えばゾーンディフェンスの目的はオフェンスのスピードを遅くすることがある。走ること、投げること、判断すること、声を出すこと、全てを遅くするのだ。つまりは考えさせる。そのためには、投げられる場所を限定して、さらにそこを投げる気持ちを摘み取る。それを実行するためにポジショニングや声を最大限活用する。風が強いのであればそれも利用し、試合前の敵のスロー練習でも目を光らし、誰がキーマンかを確認する。

いつからか、ぼくは周りを気にしなくなっていた。自分のやるべきことに集中していたのだ。

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