アルティメットを始める君へ(4)


春合宿

『とか、4月になったら(スローを)教えるんだぞ』

先輩は、春合宿でぼくに言った。

決勝戦以来ぼくは暇さえあれば練習した。ボールは恋人ではなく、ディスクは恋人というので、常に一緒に持っていた。寝る時も一緒だ。時間と相手を見つけてスローの練習をしていた。しかし、ぼくはサイドスローがいっこうに投げれなかった。どこに投げるにもバックハンドスローで投げていた。これではマーカーが大きい人だと投げられないし、パスをもらう人だって面食らってしまう。

一方、寮で覚えた麻雀のお陰でぼくはサークルに溶け込んでいった。練習の後、4人集まれば麻雀をした。徹夜でしたこともしばしば、あった。麻雀仲間でK先輩のサイドスローは天下一品だった。ピンポイントでパスを通し、敵のディフェンスを切り裂くのだ。

春合宿でぼくは、K先輩にサイドスローを教わった。
まず、体の基本的なつくりを話してもらった。サイドスローを投げる形は不自然であるから、最初は地面と90度近くの角度で投げ、慣れてきたら徐々に角度を水平にしていく。スローがぶれてきたら、できる角度まで戻して、の繰り返し。今思えば、気が遠くなる練習だった。しかも春合宿の合間だから、時間がない。休憩時間に教わるのだから休憩していない。K先輩には申し訳なかったと思う。でもそのお陰で、サイドスローのコツが判った。ぼくのスローが立体的だと後になって言われたが、ルーツはここにある。

同時に、別の麻雀仲間のT先輩にバックハンドスローのコツも教えてもらった。当時のぼくのバックハンドスローは草刈りスローと呼ばれていた。大きく振りかぶって投げるからエアバウンズスローになっていたのだ。T先輩は、前に歩きながら投げると安定すると教えてくれた、実際やってみると本当だった。T先輩もエアバウンズスローを克服していたから経験から得た知恵だった。このお陰でバックハンドスローが遠くに飛ぶようになった。力の入れ具合が理解できたのだ。副産物もあった。エアバウンズスローが”安定して”投げられるようになったのだ。晩年になって行くようになった講習会でエアバウンズスローは初心者をわくわくさせるのに十分だった。

春合宿の成果はすぐに出た。
試合中しっかり投げられるようになってきていた。

だから1年生が入ってきても大丈夫と、気後れしなくなっていた。

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